アドラー心理学の基本的な立場

国際的に通用する最新のまとめ方は、
・人間を分割できない全体として把握し、理性と感情・意識と無意識などの対立を認めないこと(全体論)
・行動の原因でなく目的を理解しようとすること(目的論)
・客観事実よりも、客観事実に対する個人の主観的認知のシステムを重視すること(仮想論)
・精神内界よりも個人とその相手役との対人関係を理解しようとすること(社会統合論)
の4項目です。野田俊作先生はこの上に「個人の主体性(人間の行動はその人が主体的に決めている)」を乗せて論じておられました。

数が少ないと整理するのにコンパクトでよいのですが、どうしても単語に付随したイメージの影響を受けて誤解と誤用が生じてしまいます。
以前はもう少し細かく整理をしていました。覚える時は大変ですが、アドラー心理学のポイントがよく見えてきます。

1 人間主義
私の関心は個々人に向けられています。私が知りたいと思うのは、人間という生き物のことではなく、たなかいちろうくんであり、すずきはなこさんなのです。
・機械とも動物とも違った個性的な人間を知るということは、人間一般に成り立つ抽象的な法則を知ることではありません。一人一人の個人を動かしている個別的な法則を知りたいと思っています。

2 機能主義
精神生活の個人的な運動の法則こそがその人の個人性の決定因子である。A.Adler
・アドラー心理学は人間精神のはたらき(機能)に注目をすることで、その個人を理解しようとします。
・精神の性的な内部構造がどのようになっているのか(例えば、この子は繊細な子だとか怒りやすい人だとか)よりも、個人の人生を貫く動的な法則を発見すること、そして、その人の一つ一つの行動が、その人の人生の流れの中でどのような意味になっているのかを理解したいと思っています。

3 目的論
人間の精神生活を研究する上で最も重要な問いは、「どこから?」ではなく、「どこへ?」である。A.Adler
・すべての人間の行動には目的があります。また、その人生の目標は一人一人でちがいます。また、目標に向かう道筋もその人独特のものです。しかし、これら行動の目的は無意識的なものですので、その人は気付いていません。もし気付くことができたら、人生の流れを変えることができます。
・ある人を理解するとき、「その人は何をしようとしているのか?」と問います。それは、「彼の目標は何か?」ということです。

4 実存主義
人間は自分自身の人生を描く画家です。A.Adler
人間の存在は常に、自分自身の在り方を選び、それを掌握する自由へ向かって開かれている。M.Heidegger
・人間は、生への積極的参加者です。決して、状況に受動的に生きていく存在ではありません。能動的存在です。したがって、人間にはいつでも自分の運命を切り開いて生きていく能力があります。
・どんな場合でも、自分の生き方を決断できる自由意志の余地があります。人間は自分の人生の主人です。

5 責任
人間は自分の運命の主人です。決して運命の奴隷ではありません。A.Adler
・その個人の人生の責任は、その個人にあります。このことを知り、自分の行為の全責任を引き受ける人が健康な人です。
・人は、自分を環境や運命の犠牲者だと思い込んでいるだけであって、実際には犠牲者ではあり得ません。犠牲者だと主張する人は、そうすることで自分や他人を欺いて責任回避をしているだけです。
・健康な人は、人生の課題から逃げないで、自分の責任として引き受け、人生の課題に建設的に対処しようとします。

6 全体論
アドラー心理学の最も大切な課題は、個人の統一的全体性を見いだすことです。A.Adler
・人間には内的な分裂や葛藤はありません。意識と無意識は一見矛盾した動きに見えることがありますが、究極的には同じ方向に協力して働きます。すべての要素は一丸となってその個人の目標を一貫して追求します。
・不登校を葛藤によって行動が生じていると考えると、「学校に行きたいけど行けない。」となりますが、全体論的に考えると、「学校へ行くべきなのは分かっているけど、生きたくない。」と言い表すことができます。

7 使用の心理学
・「あの人は未熟だ(未熟性を持っている)」とか、「あの人は攻撃的だ(攻撃性を持っている)」という言い方は正確ではありません。「あの人は攻撃性をよく使う」とか「子どもっぽい行動をよく使う」と言うべきだと考えています。
・いろいろな長所がある人が失敗し、いろいろな不利な点をもっている人が成功することがあります。
重要なのは、その人が何を持っているかではなく、与えられてものをどう使うである。A.Adler

8 場の理論
個人の人生は、社会的関係の文脈の中で理解されなければならない。A.Adler
人間は人間共同体の中のみで生きていけます。社会は私たちが生きる唯一の場です。社会を離れて人間の幸福はありません。人間共同体の中に居場所を見つけること、これが人間の究極的な課題です。すべての行動は社会という場でのみ意味をもっています。行動の意味とは社会的意味のことです。

9 対人関係論
ある個人が行っていることを理解するためには、その人が仲間に対してどんな態度を取っているかを調べる必要がある。 A.Adler
人を理解するときには、他者との関係における行動から理解しなければなりません。人間の全行動は対人関係行動です。人間のあらゆる行動には、その行動が向けられている特定の人間(これを相手方と言います)がいます。
その人の行動によって相手の行動が変わり、相手の行動が変わることでその人の行動が変わります。人間は相互に影響し合う対人関係システムの中で生きています。健全な人は、「どうすれば私も相手も共に幸せになれるだろうか」と考えます。

10 現象学
私たちは、起きた現象にその人が与えた意味づけを通してのみ現実を体験します。A.Adler
私たちは、外界に対して機械的に反応して行動するのではなく、外界で起こったことに主観的な意味づけをして、それに積極的に応答して行動します。
したがって、心理学的には、客観的に何が起こっているかより、起こっていることに個人が主観的にどう意味づけしているかが重要です。

11 価値の心理学
共同体に対する価値を見いだせる生き方をしているときにのみ、人間は人生の課題を満足な形で解決することができます。そして、自分自身の充足感を得ることができます。A.Adler
その人が何に価値を見いだしているかを知らなければなりません。間違った生き方は、間違った価値観によって引き起こされます。間違った価値観を修正して、正しい価値観に教育することが治療です。

12 実践主義
(このようにどうしようもない、不完全な)人間でありながら、どうすれば幸福になれるのか?その答を発見することがアドラー心理学の究極の存在理由です。